フットケアのススメ<2>
樋池 朝子
2004年、スポーツ界最大のイベントといえば、アテネで行われるオリンピックですね。水泳やマラソンなど気になる種目はたくさんありますが、私が個人的に注目しているのは、なんといっても短距離の末續慎吾選手です。昨年の「世界陸上2003」での彼の走りは、本当にすばらしかったです。ファイナリストになるだけでもたいへんなことなのに、見事銅メダルを獲得。陸上短距離で、日本選手がオリンピック、世界選手権を通じてメダルを獲得したのは史上初とのこと。そんな快挙を成し遂げたのに、銅メダルを獲得したことは「アテネへのきっかけにすぎません。これからです」と語った末續選手。この夏彼は、どんな走りを見せてくれるのでしょうか。
日本のメディアが末續選手を紹介するときに、必ずといってよいほど登場するのが「扁平足」。彼の足は一見、扁平足のように見えます。本人も、何かのインタビューで自分の足(扁平足)について、「物心ついたときからで、既製品は絶対に履けませんでした」と語っています。小中学校の運動会では、裸足で走っていたという末續選手。それが、高校生のとき、ミズノのスパイクに出会い、そのときのフィット感が、それまでのものとはまったく違ったそうです。それから彼は、ずっとミズノのスパイクを愛用しています。
このような話を聞くと、彼の足はいわゆる「扁平足」なんだと思ってしまいますが、実はそうではないのです。そこで今回は、扁平足の話をしたいと思います。
「扁平足」といわれている足の状態は、何種類かに分けられます。分類方法はいくつかあるようですが、ここでは3つに分けて説明させていただきます。まず、「真性扁平足」。これは、レントゲンで見たとき、骨のアーチが崩れてしまっているものを指します(図1)。扁平足の人は疲れやすいといわれますが、それは、アーチが崩れてしまっていると、衝撃を吸収するクッションの働きがなくなってしまうからです。土踏まずがあるのは、人間の足だけです。二本の足でバランスを保ち、衝撃に耐えながら歩くことを可能にしているのが、土踏まずなのです(厳密にいうと土踏まずだけではないのですが、詳しいことはまたの機会にお話します)。ですから、その土踏まずがないと、どうしても足裏全体で衝撃を受けとめることになるので、その分疲れやすくなってしまうのです。「仮性扁平足」は、重い荷物を持って長時間歩いたときなどに起こる、一時的なアーチの低下です。このような場合は、一晩休めると、アーチは元に戻ります。末續選手に当てはまるのが3つめの「見かけ上の扁平足」。これは、フットプリント(足型)を取るとベタ足なのに、レントゲンで見るとちゃんとアーチがある場合を言います(図2)。肥満のために扁平足に見える場合や、末續選手のように筋肉が盛り上がって、扁平足のように見える場合などがあります。彼の場合は、足底筋(母趾の付け根からかかとにかけての筋肉)が、異常に発達しているのです。足底筋というのは、簡単に鍛えられるものではないと言われています。たくさん走ることで、自然と発達するもの。幼いころ、自転車が大嫌いだった末續選手は、友達と出かけるときでも、一人で自分の足で走っていたという話もあるので、気づいたときには、もう筋肉が発達していたのでしょう。
幼児も3歳〜4歳ぐらいまでは、見かけ上の扁平足です。活発に歩くようになってから、はじめてアーチの形成が始まり、だいたい7歳ごろに完成します。ですから、この時期にたくさん歩かないと、アーチの形成が進まず、大人になっても見かけ上の扁平足のままになってしまう場合もあります。育児雑誌などでもここ数年、子供の扁平足が取り上げられることが多くなっていますが、運動不足、土や砂の上を歩く機会が減ったこと、足に合わない靴を履いていることなどが、大きく関係していると思われます。ただし、土踏まずのアーチの高さには個人差があるので、どのぐらいの高さがよいという基準はありません。ですから、人と比べたりすることは無意味です。発達してくる時期にも個人差があるので、もし3歳ぐらいの子供にまだ土踏まずができていなくても、焦らないようにしましょう。そして、できるだけ、砂や土の上を裸足で歩く機会を作ってあげることが大切です。大人になってからでは、アーチを形成することは難しいのです。別にアーチがなくてはならないということではありませんが、真性の扁平足ではないなら、土踏まずを形成させないのはたいへんもったいないことです。疲れやすくなるということもありますが、中学生ぐらいになると、水泳の授業などでプールサイドにつく足跡が、自分だけベタ足なので恥ずかしいという、切実な悩みになってしまうこともあるようです。
さて、末續選手の場合は、高校生のときに自分の足の特徴に合ったシューズと出会うことができ、それが記録へと繋がったといってもよいでしょう。もし裸足のままや、合わない靴のままでは、練習も思うようにいかなかったはずです。かつて「裸足のアベベ」と呼ばれたマラソン選手もいましたが、0.01秒を争う世界では限界があります。高橋尚子選手が左右の脚の長さの違いを調整してくれる「三村シューズ」(アシックス)で金メダルを獲得したように、靴との出会いがスポーツ選手の記録に大きく関わっていることは無視できません。末續選手も、ミズノのスパイクとの出会いがなければ、世界陸上での活躍はなかったかもしれません。そしてこれは、スポーツ選手に限ったことではありません。どんな人にも、「これだ!」と思える靴との出会いがあるのです。私にもありました。本当にピッタリする靴に出会ったときというのは、足がわかるものです。「今までの靴は、なんだったんだろう!」と思ってしまうほど違うのです。そんな靴に出会うためにも、まずは自分の足の特徴を知ることが大切です。皆さんも自分の足の特徴を知り、末續選手のように靴との運命的な出会いをしてみませんか?
筆者のHP
Salon de Peau(さろん・ど・ぽー )
http://peau.at.infoseek.co.jp
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(パプリカ通信2004年4月号掲載)