フットケアのススメ  

〈11〉 - 粉瘤体験記 -

※粉瘤=アテローム(atheroma) 

樋池 朝子

 皆さんは、「粉瘤(ふんりゅう)」というデキモノ をご存知ですか?   顔や耳の後ろ、背中などにでき やすく、足裏にできるとタコやウオノメなどと間違 われることもあるそうです。今回は私の実体験をも とに、フットケアからは少し離れてしまいますが、 意外と知られていない「粉瘤」についてお話したい と思います。

  私が粉瘤を知ったのは、昨年の十一月。といって も、初めて出来たわけではなく、ずいぶん前から何 度かできていたのですが、粉瘤だということを知ら ずに過ごしていました。メガネをかけるときに、耳 の後ろに何かが出来ていて気になることが時々あ ったのですが、手で触ってみるとニキビのような 感触だったので、「こんなところにニキビができる のか・・・ 」と放っておきました。いつもはしばらく たつと自然になくなっていたのですが、今回は、数 日後にはブヨブヨしてきて、ものすごく大きくなっ てしまいました。耳の後ろなので、合わせ鏡を使っ てもよく見えなかったのですが、どう考えても自然 に小さくなるとは思えない大きさだったので、皮膚 科へ行くことにしました。そして初めて、このデキ モノが粉瘤であることがわかったのです。

「粉瘤(※アテローム)」とは、皮膚の下にカプセ ルのような袋状のものができ、本来皮膚から剥げ落 ちるはずの垢(あか)や皮膚の脂が、袋の中にたまっ てしまった腫瘍の総称です。垢なんて言われると、 粉瘤ができるのは不潔にしているからかしら・・・ な んて心配になってしまったのですが、きちんとお風 呂に入っていてもできてしまう場合が多いそうです。 腫瘍といっても基本的に良性なので、通常はとくに 治療をする必要もないのですが、化膿して真っ赤に 腫れ上がることがあったり、粉瘤に似ていても違う ものの場合もあるそうなので、「粉瘤かな?」と思 ったら、まずは皮膚科で確認しましょう。

  さて、私の場合、皮膚科で耳の後ろを見せたらす ぐに「これは粉瘤ですね」と言われ、「まあ、ニキ ビの親分みたいなものです」と説明されました。で も、次の言葉にちょっと驚きました。「ここまで炎 症を起こしてしまった粉瘤は、薬ではどうすること もできません」と言われたのです。さらに、「良性 なのでそのままにしておいても大丈夫ですが、大き くなっているので破裂するかもしれません。破裂す る前に、表面の皮膚を少し切って膿みを外に出すこ ともできますが、わざわざメスを入れるのもどうか と思うので・・・ 」とのこと。私は、複雑な気持ちに なりました。切ればブヨブヨはなくなるけれど、切 らなくてもすむならその方がいい、でも、ずっとこ のままというのも困るし・・・と、頭の中で「切る、切 らない」がぐるぐるしていました。即決できない私 に先生は、「まあ、あまり効き目は期待できません が、とりあえず抗生物質を試して様子をみますか?」 と言ってくれました。もしかしたら、炎症が治まる かもしれないなら、ほんの少しの可能性でも試して みようと一週間分の薬をもらって帰りました。

「粉瘤」という言葉を初めて聞いた私は、家に帰 ってからすぐに、インターネットで調べてみました。 たくさんの「粉瘤体験記」が見つかりましたが、ど れを読んでも炎症を起こした人は切開する道を選ん でいたのはかなりショックでした。やはり自分も、 切ることになるのかと・・・ 。それから藁をも掴む思 いで、三日ほど抗生物質を飲んでみたけれど、粉瘤 は少しも小さくなっていませんでした。もうこれは 切るしかないと覚悟を決めようと思ったのですが、 もう一度インターネットで検索してみたら、ある人 の体験談に「ティートリーオイルで治った」と書か れているのを発見しました。ティートリーとはユー カリの仲間で、フトモモ科の高木です。そのティー トリーの葉から抽出した「ティートリーオイル」 は、昔からアボリジニ(オーストラリアの原住民) が傷や皮膚のトラブルに使用し、今では家庭の常備薬としても使われている精油(エッセンシャルオイ ル)です。殺菌効果にすぐれていて、ニキビ対策に も使われたりしています。「粉瘤はニキビの親分な んだから、もしかして・・・ 」と思い、試してみるこ とにしました。たまたまティートリーと数種類のハー ブが入ったニキビの炎症をおさえるための液体(薬 ではないので液体としかいいようがないのですが) を持っていたので、寝る前に粉瘤に塗ってみまし た。翌朝起きて真っ先に耳の後ろを触ってみたら、 なんと少し小さくなっていたのです。「これは、い けるぞ!」と、かなり希望が見えた私は、それから 朝晩塗り続けました。

  一週間後に皮膚科へ行ったら、「おや?   少し落 ち着いたみたいですね」と言われました。でも抗生物 質だけのせいではないと思ったので、「実は・・・ 」 と正直にティートリーを使ったことを話してみまし た。先生は「へぇー」という感じで、以前にも使っ た人がいたけれど、まだ医学的には効果などが証明 されていないと説明してくれました。でも、使って 悪いことはないそうなので、「じゃあしばらく、 ティートリーと抗生物質で続けてみますか?」とい うことになりました。とりあえず、切らずにすみそ うなので、ホッとしました。それから、ティート リ ーを朝晩塗り続けたら(薬はあまり飲みませんで した)、私の粉瘤は少しずつ小さくなり、一ヶ月後 にはベッタンコになりました。先生も、「ティート リーのおかげなのかなぁ・・・」と驚いていました。

  でも、私と粉瘤との闘いは、これで終わりではあ りません。粉瘤は、垢や脂が蓄積した袋(カプセル) をまるごと摘出しなければ、同じ場所に再発する可 能性が高いのだそうです。つまり切開しなければ、 粉瘤を根治することはできないのです。炎症を起こ した状態やその治りかけの状態では摘出することは できないので、今度粉瘤ができたら、炎症を起こし ていないとき(コリコリしている状態)に来院するよ うにと言われました。いつ再発するのか、あるいは もう再発しないのか、全く予想できないのが「粉 瘤」なのです。きっとまた、ある日突然、現れるの でしょう。私の場合は、できた場所が耳の後ろだっ たのでそれほど困らなかったのですが、お尻や背中 にできると、かなりたいへんなことになるようで す。足の裏にできる場合は、粉瘤が常に自分の体重 で皮膚の内側へ押し付けられているので、ほかの部 位にできた場合と異なり、皮膚の外側に盛り上がって くることはないとのこと。それで、皮膚の下の「し こり」と感じることが多く、タコやウオノメと勘違 いされている場合もあるそうです。

  全ての粉瘤が、ティートリーオイルで治るかどう かはわかりません。でも、現代医学では切るしかな いと言われていたのに、とりあえずではあります が、植物の力で治まったことは、大いに注目すべき ことではないでしょうか。私のように「切るのはイ ヤだ!」という方、試す価値はありそうですよ。


著者のHP
Salon de Peau(さろん・ど・ぽー )
http://peau.at.infoseek.co.jp


パプリカ通信2005年2月号掲載