ウィーンからの贈り物
シャン二ガルテンが気持ちの良い季 節。冬が長かったからこそ、日光のあ たるテラスでのひと時は神様からのお 恵みといった感じ。
昨晩はオペラ座で中村祥子主役の 「白鳥の湖」を観劇。誰もが知ってい る人気バレエ演目のせいか、自分の希 望通りの席がとれず、三階のBOX席 二列目で一/三程度の舞台をヒーヒー いいながら見るはめになった。最悪な のが、一列目のおじさん二人が大柄 で、しかも酒臭く始終、体を動かし挙 句の果てに途中で席をたってしまっ た。そのまま帰ってくれたら良いので すが、また戻って来て私の前をうごめ いているので、ごめんなさい祥子ちゃ ん!一幕でオペラ座を出るという悲惨 な結果となりました。中村祥子の白鳥 は定評が高い。彼女の性格からすると 白鳥のオデットかな?とか思います が、黒鳥が実に魅力的で素晴らしかっ た印象があります。静かな白鳥から、 情熱的な黒鳥への変化が上手に演じら れていて、あきらかに祥子ファンが増 えたことでしょう。
ところが、その中村祥子をウィーン で見られるのは、六月の「眠れる森の 美女」が最後?とファンをやきもきさ せています。やはりオペラを中心とし たオペラ座では、バレエの上演回数が 少ない上に、バレエ監督の好みなどの 問題もあり、お気に入りのバレリーナ にしかチャンスをあたえない動きがあ るようです。実際新シーズン二〇〇六 六/二〇〇七のオペラ座プログラムを 覗いてみると、バレエ団リストにプリ ンシパルダンサーの名前がないのには 驚きを感じます。客演でプリンシパル 級ダンサーを呼ぶのでしょうが、プリ ンシパルがいないバレエ団なんて聞い たことがありません。
さて、六月はいよいよオーロラ姫の登 場です。同じチャイコフスキーでもオ ネーギンの緊張感溢れるドラマチック なバレエを見た後は、舞台もバラ色。 「眠れる森の美女」は大人も子供も楽 しめます。とりわけ見せ場は一幕の ローズ・アダージオ。一六歳の誕生日 を迎えたオーロラ姫が4人の求婚者達 にエスコートされながら踊る場面で、 途中で彼らが姫に薔薇の花を捧げると ころからこの呼び名がある。このロー ズ・アダージオで、もっとも特徴的な 振付けといえるのが、オーロラ姫が求 婚者達に次々と手を取らせながらポワ ントに立ったままアチチュードの姿勢 を続ける場面です。一人また一人とエ スコート役が替わるたび、姫は支え手 を完全にはずし、こともなげに長いバ ランスを保つ。(勿論、それがこのう えなく難しいものである事は、誰もが 知っている。)
オーロラ姫の登場場面でみせる短い ソロから、このローズ・アダージオ、 そしてヴァリエーションという第一幕 の一連の舞踊はバレリーナの至芸を たっぷりと味わえます。数ある古典名 作の見せ場のなかでも最大のものに数 えられます。舞台に登場した瞬間の 華、続いて示される技術、個性のきら めきと、オーロラ姫役の踊り手への評 価はこの幕だけでほとんど決まってし まうと言っても過言ではありません。 オーロラ姫の魅力はなんといっても、 その全身から醸し出される幸福感、影 の部分を持たないヒロインなのです。
オーロラ姫が登場した瞬間、観客に オーロラだとわかってもらわなければ なりません。踊りは普段の生活も自然 に表れることから、例えば家事に気を とられていると、リハーサルで「家庭 の匂いがする」と指摘されたり、だか らオーロラを踊る時は、あまり家事を しないバレリーナもいるようです。 オーロラ姫以外にはデジレ王子、青い 鳥、宝石、赤ずきん、等。最も忘れて はいけないのがリラの精と魔女カラボ スの存在です。そして有名な花のワル ツの音楽が、優雅なバレエの夕べへと 導いてくれる事でしょう。
パプリカ通信2006年6月号掲載