ピックアップインタビュー第4弾 2012.11


ハンガリーバレエ界に輝く若き2人の日本人バレリーナ〜              

浅井 友香さん
6歳より本田陽子師事のもとバレエを始める。
16歳にてロシア国立ワガノワバレエ学校に留学。2年間の留学を経て卒業後、
2009年よりハンガリー国立バレエ団に入団。
2007年 第40回埼玉全国舞踊コンクールクラシック1部 第1位


藤井 彩嘉さん

3歳より大阪にてバレエを始める。ソウダバレエスクールにて宗田静子に師事。
16歳よりアメリカ、Kirov Academy of Washington, DCにスカラーシップにて留学。
ジャクソン国際バレエコンクール, ローザンヌ国際バレエコンクール、ファイナリスト。
ボストン国際バレエコンクール 銅メダル。 
2012年ハンガリー国立バレエに入団。

昨年11 月、初めてのハンガリー国立バレエ団のプレミア公演があった『オネーギン』。ロシアの小説家プーシキンによる韻文小説『エヴゲーニイ・オネーギン』に基づくもの。この作品は、オペラ『エフゲニー・オネーギン』の曲を全く使用せず、チャイコフスキーの他の楽曲を用いているのが特徴である。物語バレエと呼ばれるジャンルの中では有名なものだ。かなり早い時期からハンガリー国立バレエ団は、この公演を大々的に宣伝し、かなり熱を入れているものだと感じていた。他の作品と違う、もう一つの特徴は決して登場人物・出演者が多い作品ではない。そんな作品に2人の若き日本人バレリーナがオープニングから重要な役で出演していた事は、どうにも止められない期待感と優越感、そして誇らしく思えた。ついつい彼女たちの事をひいき目でピックアップして観ていた事も事実だが、なによりも二人の指先まで行き届いた表現力には感心させられた。

もともと知り合いであった二人だが、後日改めてインタビュー依頼をした。その目的は2つある。一つは今日2人が素晴らしいステージに立っている過程に、とても興味があったから。そしてもう一つは、この二人を、もっと多くの方に知ってもらうべきではないかと思ったから。インタビューは、とても興味深いものになり、彼女たちのまっすぐで、はっきりとした方向性に、時々私自身の行動や考えが恥ずかしいなと感じさせる場面もあった。今、世界に挑戦する若い世代のしっかりとした思いを、是非感じ取ってもらえたらと思う。

 

                    【オネーギンでの二人】

インタビュー場所は、国立オペラ座の近くにある『ムーヴェースカフェ』。芸術を語るには、申し分のない場所ではないかと思い、そこで彼女たちと待ち合わせをした。プライベートでは、本当に普通の若い女の子たちで、練習帰りに立ち寄ってもらった。先日はプレミアに招待して頂いてもらった事に対して、私が先に御礼を言うのが当たり前なのだが、『来て頂いて、ありがとうございました』と先に御礼を言われてしまった。この気遣いに圧倒されそうになったが、質問を開始した。

☆この公演は今までになかったようなハンガリー国立バレエ団の熱の入った公演になっているなと感じたのですが。

浅井・藤井)今回の『オネーギン』は、今年になっての初めてのプレミアと言う事でディレクター自身、かなり力を入れていた作品です。他の公演などは2週間〜1ヶ月程度で日程をかけずに進んで行くのですが、今回は練習も2ヶ月位前から始まりましたし、もちろん公演中も練習はありますので回を重ねるごとに、仕上がりが良くなっています。

浅)もう一つは、ディレクターが変わった事が大きいですね。私は国立バレエ団に入団して4年が経つのですが、以前のカンパニーはアットホームな感じだったんです。技術的な事など含めてゆるい感じでしたので、年上の方にとってはよかったと思いますが、私自身バレエと言うのは『切磋琢磨』して創り上げてゆくものだと思いますので、それでは向上していかないのではないかと感じていました。ですが、現在のディレクターになってから一掃していこうという方針に変わってから、バレエ団の意欲が大切な事が全面的に現れていると思います。以前より一人一人の意識も違いますし、全体で良いものを作るという共通な部分も空気が違うのがわかります。

☆以前との大きな違いはありますか。

浅)1年目と現在の大きな変化は、カンパニーの雰囲気がアバウトと言うか、なあなあだったものが、一生懸命な姿勢に変わってきたし、一人でもがんばっている人がいると、その相乗効果といいますか、それにつられて前向きな考えに切り替えていったりしています。ディレクター自身も普段のレッスンから観にきたりするので、そうなるときちんとやらなければという気持ちも出てきますよね。常に緊張感があると疲れてしまうので、もちろんプラスとマイナスの両部分はありますが、私にとっては良い緊張感が保てるのであればそちらを選択すると思いますし、自分には必要な事だと思っています。芸術と言うものは、そのような意識が無いと、どんどん下がってしまうと感じています。

☆浅井さんはサンクトペテルブルグから、藤井さんはワシントンD.Cからハンガリー国立バレエ団にいらしたわけですが、ロシアやアメリカとの大きな違いはありますか。

浅)私はサンクトペレルブルグではバレエ学校に在籍していたので、先生が居て先生が指導をしてくれてと言うのが基本でした。バレエ団では、そういった注意は受けませんし、ある程度自分で考えて行動をしないとなりません。自分が、がんばっているからといって配役がもらえるわけではないので、自己アピールもしていかなくてはなりませんし、いかに臨機応変に対応できなくてはいけないかと言う事も重要ですので、自分の意思と言うものが必要不可欠になってきます。バレエ学校では、言われるがままにという感じでしたし、ロシアのバレエ学校の場合は基本的に練習練習という感じでしたので、朝から晩まで殆ど休み無しで練習していました。こちらに来てバレエ団に入ると練習も必要最小限ですしリハーサルも早く終わるので、自分でやらないと何も与えてくれないんだなと実感しました。その事によって自分でやるべき事を見つけて行くことが、これから自分自身に大事になっていくんだなと思っています。

藤)基本的にはワシントンD.Cではバレエ学校、そしてハンガリーではバレエ団と言う事で、勉強と仕事の違いを実感します。私の場合は、バレエ学校では午前中は高校生として一般教養を学んでいました。そして午後から夜にかけてレッスンと言う日常でした。ヨーロッパのバレエに対しての環境の違いに戸惑うこともあります。向こうでは寮に入っていた為、食生活や学習面でもあまり困る事はありませんでしたが、

 今は、一人暮らしをする事も初めての経験です。一ヶ月の自分のお給料の中で全てをやりくりしていく事や、食事の材料なども自分で購入したりとがんばっています。自己管理もその一つで、健康管理や体系維持などにも気をつけています。もう一つは、今までは寮に居ましたので、いつも誰かが近くにいる生活でしたが、現在はバレエ団にいる時はバレエ仲間が助けてくれますが、家に帰ると一人ですので、その辺の精神的な部分を、どうコントロールしていくか試行錯誤中です。幸いな事に、浅井さんがいらっしゃる事が大きく、壁にぶつかった時や寂しい時など多くの面で安心できる事もありますし、離れて暮らす両親もありがたいと思っています。

☆では逆に、浅井さんが来た時には、日本人やアジア人がいなかったと思うのですが。

浅)藤井さんの話を聞いて、昔の自分を思い出します。私が来た時には、日本人はもちろん居ませんでしたし、バレエ団のメンバーとも仲が良くなる前でしたので、1年目は家にこもっていた事が多かったです。スカイプで親に話を聞いてもらう程度しかできなったので、いろいろな面で、きつかったですね。2年目以降から、この環境をどうしていけばいいのか考えるようになり、周りに友達を作ったりバレエ団の中でも友達が出来てきたりして、自身は感情をすぐに表に出してしまう性格なのですが、今では友人に相談したり話す事で発散したりして、その日のうちに嫌な事などを吹き飛ばせるようになりました。

藤)右から左と完全に聞き流す事はよくないけれど、海外で他の国の方と競り合っていく為には、ある程度は流す事も必要であると
思います。


☆今回のように、少ないキャストの中に日本人2人が選出されている事も、2人に何かがあるからかと思うのですが、実際バレエ団がキャストを選ぶ時などはどのように選出するものなのでしょうか。

浅)バレエでも、他のジャンルでも理不尽な事ってあると思うんです。そういう事に関しては、ある程度理解しています。得に今回は、いつも私たちを観ているハンガリー人関係者ではなく、海外の方が配役を決めていたんです。普段の私たちを何も知らない方が決定した為、とてもフェアな目線での配役がきまっていたと思います。これはとても嬉しい事でした。他の公演では、どうしても自分の実力意外にハンガリー人の中での、しがらみなどから配役されない事も多いので、自分の中で仕方がないと思って、ぐっと気持ちを抑えてしまう事もあります。小さな役をもらった時も、もちろん嬉しいですのでポジティブに感情もって行きますが、逆に言えばその悔しさなどの感情を押し殺してしまって、最小限で喜ぶ事を覚えてしまっている自分がいる事も事実です。そういう時には無心で練習に徹して良い方向転換できるよう気持ちを切り替えています。点数などで配役が決まるわけではないので、ある意味アバウトな世界ではあると思うんです。いくら上手でも、配役決め毎にディレクターが気に入るか、そうじゃないかによって大きく変わって行きます。ディレクターとの相性などもあるので、そういう面では大変な事が多いです。

藤)私はとにかく、仕事としてバレエを踊れる事になって全ての事が始まったばかりなので、一つ一つが新鮮です。役をもらえなくても少しづつ上に上がっていっているところなので、何事も無心にやっている段階です。ただ今回のオネーギンに関して役をいただけた事は、本当に嬉しかったです。実は、始めはアンダースタディーと言って役がついてなかったんですが、ちょっとしたきっかけがあって役を頂く事ができました。今は全て初めての事を見て・体験している段階ですので、これからおこりえるであろう試練のようなものを少しづつ感じながらも、最初はこういうものなんだと思いつつ打ち込んでいます。そんな私にも悩む事もあり周りに相談しますが、今の段階は落ち込んだり悩んだりする必要もないし上を向いてがんばったらいいじゃないかと言われますので、完全に底辺の部分にいるかなと思っています。今やっている課題をこなす事が大事で、それが出来た時の喜びを味わいつつ前に進んでいっています。

☆浅井さんは4年目。藤井さんは1年目ですが、近い目標と最終的に目指している事を教えてください。

藤)今は、まずはもらった役をちゃんとこなせる事です。バレエの場合は怪我をしてしまうと代役を立たせます。そうならないようにする為に自己管理を気をつけて自己責任にならないように心がけています。与えられた役に対して最後までやり通す事が大事ですので、毎日のリハーサルが目標になっています。その積み重ねが、この先の自分のバレエの変化に繋がっていくと思っています。大きな目標は、配役でもきちんと名前がある役を頂きたいです。今回はもちろん少ない中の一人ですが自分自身の役名みたいなものはなかったんです。出来るのであれば、舞台の真ん中で踊れるような役をいただける事を目指していきたいです。アメリカや日本にはオペラ座はなく、コンサートホールを一時的にオペラやバレエの舞台を作るんですよね。ヨーロッパに来てオペラ座で踊っている自分も客席にいても、本当にわくわくしています。

そんな舞台で何人かと一緒に踊るのではなく、自分の踊りをステージの真ん中で思う存分踊れるようになりたいなと言うのが目標ですね。今は経験を積んで、その目標に近づくようにがんばっています。

浅)私は一つ一つの舞台で自分がやるべき事を、きちんとこなして行くことですね。つい最近までは、周りと合わせる事に重点を置いていて、少し自分のバレエと言うものを見失っていたような気がします。どんな役が着ても、観に来てくださる方々が私の事を注目して観てくれるような踊りができるように自分でも納得のいく自分の踊りが出来たらいいなと心がけています。大きな目標は、まだプロのバレエダンサーと言う事に抵抗があります。得に日本などで、そう伝えても反応が薄いですし。それが職業である事自体も知らない方が多いです。体格作りや精神的な事に関しても、プロとしての自覚をもちつつ成長して行きたいですし、生活面やバレエに関してもプロダンサーなんだと自信を持って言えるようになりたいです。バレエ団の中にも尊敬できる方々も居ますので、その方たちのいいところを見習って自分に生かせるようにもしたいですね。

二人の若手バレリーナもといバレエダンサーの強い意志と、自分をよく見つめているなとインタビューさせていただいて感じました。若い世代でも地に足をしっかり置いている方たちもいる事・芯のあるチャレンジ精神があること、そして更に彼女達に注目していただきたいと思いました。皆様、是非オペラ座でのバレエ公演に足をお運びください。

第3回 三峯 千寿佳さん
東京学芸大学教育学部中
等教育教員養成課程、

音楽専攻4年在学中
第2回 ハンガリー乳幼児教育研究者
サライ 美奈さん
ピックアップインタビュー


編集長がハンガリーで出会った素晴らしい方々をインタビュー形式でお届けしております。

第1回 ピアニスト 阿久澤 政行さん